スゥちゃんから初めて相談されたのは文化祭前だった。確か部活終わりの別れ際だったような気がする。
 「文化祭で男装コンテストに出ることになったんですけど、学ランだけじゃ物足りないですよね?」
 気にするほどのことでもないような気もする。でも確かに男装コンテストで学ランはべた過ぎる気がする。何かもうひとひねりほしい。
 「コスプレ用の学生帽かぶれば?」
 彼女はいともあっさり納得し、「じゃあそうしますね」と去っていった。それだけだった。

 文化祭で私がスゥちゃんを見たのは演劇部の寸劇と、まるで下僕を見るような目で会場を見回す学ラン姿の彼女だけだった。劇の内容もコンテストの結果も覚えていないが、彼女の整った横顔と胸まで届く黒髪はやはり忘れることはなかった。

 一見どうでもいいような出来事だがこれがきっかけで私は菖蒲雛からよく相談を受けるようになった。