スゥちゃんこと菖蒲雛と帰り道で話した普通の会話はもうほとんど覚えていない。ただ漠然と楽しかったという記憶だけが残っている。たしか学校での出来事とか、スゥちゃんの好きなマンガや携帯小説の話とかがメインだったはずだ。むしろ話を聞いているときに見るかわいい横顔と長い黒髪のほうが頭の中に残っている。
 私の楽しい会話の記憶が抜け落ちてしまった原因はというと、衝撃的な話や相談を受けたことがあまりにも多かったことに他ならない。スゥちゃんは私以上に奇怪だったのだ。
 まず第一にスゥちゃんは祖父母から虐待に近い仕打ちを受けていた。制服の袖がめくれるとき時々痣のようなものが認められたし、本人も祖父母から殴られたりしていると言っていた。自分のいない間に自分の部屋に親が入り込み、日記を見られる等日常茶飯事。どうやら彼女のご両親は娘が自分の思い通りに動かないと気が済まないらしい。
 そして彼女はそのストレスを発散するためか、中学生とは思えないほどの恋愛をしていた。携帯、パソコン、出会い系サイトなどを利用して数人同時につきあっていた。一人の彼氏につき二週間続けばいい方で、私が確認した中で最短記録は三日。男たらしと言われても仕方がないレベルだ。
 スゥちゃんとの会話は家族や学校の愚痴、彼氏についてのあれこれ、恋愛小説や漫画の感想が八割を占めていた。残りの二割くらいが普通の会話と言ったところか。